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Cantus Missae op.109のお話


fig.1 via Carus 50.109
fig.1 via Carus 50.109
fig. 2 via BSB Mus.ms. 4581 P.39
fig. 2 via BSB Mus.ms. 4581 P.39
fig.3
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fig.4 via BSB Mus.MS. 4739 b-2 p.24
fig.4 via BSB Mus.MS. 4739 b-2 p.24

 2019年上半期、東京都内でラインベルガーの代表作、8声ダブルコーラスの『Messe in Es op.109 "Cantus Missae" 変ホ長調ミサ曲 作品109 "Cantus Missae" (1878)』が4団体で取り上げられます。大人気です。そこでちょっとトリビアをご紹介したいと思います。ま、WebMasterも最近気づいたんですけどね。このミサ曲の少しだけ詳しい話は個別解説をご覧ください。テキストの扱いなどありますので。あと、本項のお話は別にWebMasterが発見した話ではありません。すでに2004年にはクリティカルレポートで公表されていることです。でも多分誰も知らないと思いますのでご紹介しますね。

 

 まず、fig.1をご覧ください。これは同ミサ曲の最後の最後、Agnus Deiの末尾2小節です(via Carus 50.109)。べつにそんなに難しい終了ではありません。が、Coro 2 のソプラノ2に赤囲みしております。Coro 1 ソプラノ1同様 as1 - g1と重複していますが、実はこれがくせ者なのです。

 

 実はラインベルガーの直筆清書ではこの箇所は f1 - es1 にしか見えないのです(fig.2参照)。ラインベルガーは次のミサ曲 ヘ長調 作品117までア・カペラミサ曲はソプラノ、アルト、テノールを対応するハ音記号で書いています。ソプラノは第1線がc1になります(ちょっとわかりづらいですので、SATをト音記号に書き直したものを用意しました fig.3)。あ~、こりゃf1がぶつかるからハ音記号とト音記号をラインベルガーはうっかりミスしたかなと思ったのですが、これを実際に鳴らしてみると、違和感がないんですよね。むしろソプラノ2のf1がアルト1やテノール2のesと気持ちよくぶつかってアクセントになるのです。ちなみにスケッチ(fig.4 BSB Mus.Ms 4739 b-2 p.24. このスケッチはト音記号で書かれてますのでご注意を)での該当箇所を見ると、es1 - es1に見えるんですよね。

 

 Carus社のクリティカルレポートによると、(未見ですが)1879年に刊行されたJosef Aibleの初版(ミュンヘン)、ならびにたぶんAible版を元にしたUniversal Edition版(ウィーン)、そして上記のスケッチでソプラノ2はas1 - g1となっているそうなので、現在手に入るCarus社のエディションもそれに倣って、as1 - g1にしているんだそうです。いややっぱりどう見てもスケッチはes1 - es1に見えるけど。Aible初版がミスったんでね?これ。

 

 音楽学者がよってたかって検討した結果ですし、おかしなことがあるわけではないですから as1 - g1 でいいんですけど、やっぱ f1 - es1 がいいではないかと思うんですけど。

 

 もしWebMasterがこの曲を取り上げる機会があるなら f1 - es1 を試してみたいですね。ただWebMasterは"Cantus Missae"が嫌いなので、やんないですけどね。