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Lockung op.25

誘惑 作品25


Lockung 第一稿清書 / D-Mbs, Mus. ms 4696-4 (1858/02/27)
Lockung 第一稿清書 / D-Mbs, Mus. ms 4696-4 (1858/02/27)

 「私の人生は教職によってとても単調になっています。しかし今度のオラトリオ協会の演奏会で、より小さな曲を演奏しようと思います」。確かに1959年12月9日の両親へあてた手紙で言及したこの「より小さな曲」は、3週間後の1860年1月3日にミュンヘンオラトリオ協会によって初演された。アイヒェンドルフの詩に作曲された件の作品、混声合唱とピアノ伴奏のための『誘惑』は、すでに1858年の2月に紙に起こされていた。彼は後に初稿を1859年12月に、明らかに上記の演奏会のために改訂した。二つのパッセージ「Wo die vielen Bäche gehen 多くの小川が流れる」と「Wenn die Bäume träumend lauschen 木々が夢見がちに聞き耳を立てる」によって、変更や拡張され作品は32小節長くなる原因となった(初稿の88小節に比して119小節となっている)。合唱部分の書き込みに対しての大部分は変更されなかった。ラインベルガーは、ほぼ全体を通してピアノ伴奏の構造を変更した。

 

 

 1869年に作曲家が出版した作品25の版は、初期の二つのバージョンとは著しく異なっている。最も著しい改変は上記二つのパッセージと「Sie erwachen alle wieder nachts in Waldeseinsamkeit 彼らすべては森の孤独の中で夜に再び目覚める」のパッセージである。それ以外の箇所、合唱部分は初期二つのバージョンとほとんど同じである。対照的にピアノ伴奏部分は完全に改変され、以前の二つのバージョンに比べ絶え間ない16分音符の動きにより、より自由で多様なピアノの質感をもたらしている。

Lockung 第二稿清書 / D-Mbs, Mus. ms 4508 (1859/12/12)
Lockung 第二稿清書 / D-Mbs, Mus. ms 4508 (1859/12/12)

 『誘惑』の最終稿は1869年4月上旬に作成された。4月11日にラインベルガーはライプチッヒの出版社・フリッチに作品を送り、5月8日に校正刷りを受け取った。出版譜はライプチッヒのオシアン合唱協会に献呈された。フリッチに宛てた1869年4月3日付けの手紙に、献呈の理由を示唆されている。協会は作曲家の合唱曲を「堂々と習得」し「多大な影響」を及ぼしたと。件の「作品」とはフリッチにて1867年に出版した無伴奏合唱曲『5つの歌』(作品2)、または曲集からの2、3曲であることが考えられる。オシアン合唱協会への『誘惑』の献辞はこれらの曲を演奏したことへの作曲家からの感謝の、意思表示と見なければならないだろう。

 

 ファニーの日記の記述によれば、『誘惑』の最終稿の初演は1869年6月4日にミュンヘンオラトリオ協会によってなされた。しかしながら、これは公開初演ではなくリハーサルである可能性が高い。出版譜を献呈されたオシアン合唱協会によるライプチヒでの演奏は、1872年の11月16日に行われたことが知られている。

 

 月夜と森の中の孤独、木のそよぎや歌う水の精、これらの「誘惑」はラインベルガーの構成により、様々な方法で表現されている。執拗な問いの繰り返し、「lockt's dich nicht それはあなたを誘惑しない(12から14小節目と22から24小節目)」または例えば、数小節の構築は次の言葉をみつける。「sie [die alten Lieder] erwachen alle wieder 古い音楽は全て再び目を覚ます(43から58小節目)」。この後者のパッセージはニ声で開始され、ディナーミックの増加に伴い対位法的にフルコーラスで歌われ、徐々に「古いおかしな歌」を再び思い起こさせる。もう一つの効果的なクライマックスは59小節目から始まる「Wenn die Bäume träumend lauschen(木々が夢見がちに聞き耳を立てる)」。そして結部は「Komm herab, hier ist's so kühl(降りてきて、ここはとても爽やかだから)」と、川の水の精を呼び叫びながらフォルテッシモで終わる。そして私たちは興味深い和声進行を見逃しては行けない。最終的にはハ長調というかなり遠い調(主和音はイ長調)に到達し、そしてかなり、このパッセージの印象的な効果を付け加える。

Rheinberger Sämtliche Werke 22・Weltlich Chormusik IV für Chor bzw. Solostimmen mit Begleitung

(Foreword XXII/ Sebastian Hammelsbeck)より


Hörst du nicht die Bäume rauschen

draußen durch die stille Rund?

Lockt's dich nicht hinabzulauschen

von dem Söller in den Grund?

 

Lockt's dich nicht hinabzulauschen,

wo die vielen Bäche gehen

wunderbar im Mondenschein?

Lockt's dich nicht,

wo die stillen Schlösser sehen

in den Fluss vom hohen Stein?

 

Kennst du noch die irren Lieder

aus der alten, schönen Zeit?

Sie erwachen alle wieder

nachts in Waldeseinsamkeit.

 

Wenn die Bäume träumend lauschen

und der Flieder duftet schwül

und im Fluss die Nixen rauschen:

Komm herab, hier ist's so kühl!

静けさの中、外で木々がざわめくのが

聞こえませんか?

バルコニーから地面に耳を傾けるよう

誘惑されていませんか?

 

月明かりの下、

素敵な多くの小川が流れるのに

耳を傾けるように誘惑されていませんか?

高い止まり木から

川面の静かな城を見つめることを

誘惑されていませんか?

 

古き良き頃のおかしな歌を

知っていますか?

彼らすべては森の孤独の中で

夜に再び目覚める。

 

木々が夢見がちに聞き耳を立てる

そしてライラックはむせぶ匂いを放ち、

そして水中で妖精はざわめく。

降りてきて、ここはとても爽やかだから。



補足)1869年の最終稿のマニュスクリプトは現存していないようです。

 

4年ぐらいお蔵入りしていた、といいますか、すっかり忘れていました『Lockung op.25 誘惑 作品25』の解説翻訳を掲載いたします。すでに公開していました水の妖精 op.21』と対になっているわけではありませんが、「四重唱または小合唱のための」と同じ編成の作品ですので、一緒に演奏される機会もあるかと。

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