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Messe in f, op.62


Agnus Dei


初稿時の直筆清書表紙。Gloriaなどはまだない。出典:Bayerische Staatsbibliothek München, Signatur BSB Mus.ms. 4540/2
初稿時の直筆清書表紙。Gloriaなどはまだない。出典:Bayerische Staatsbibliothek München, Signatur BSB Mus.ms. 4540/2
「Verbum supernum 天のみ言葉」直筆清書。出典:Bayerische Staatsbibliothek München, Signatur BSB Mus.ms. 4540/2
「Verbum supernum 天のみ言葉」直筆清書。出典:Bayerische Staatsbibliothek München, Signatur BSB Mus.ms. 4540/2

テキストの扱い

※黄色斜体が省略されている部分

Gloria

 

Gloria in excelsis Deo. Et in terra pax hominibus bonae voluntatis.

Laudamus te. Benedicimus te. Adoramus te. Glorificamus te.

Gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam.

Domine deus, rex caelestis, deus pater omnipotens.

Domine fili unigenite, Jesu Christe.

Domine deus, agnus dei, filius patris.

Qui tollis peccata mundi, miserere nobis.

Qui tollis peccata mundi, suscipe deprecationem nostram.

Qui sedes ad dexteram patris, miserere nobis.

Quoniam tu solus sanctus, Tu solus dominus.

Tu solus altissimus, Jesu Christe.

Cum Sancto spiritu, in gloria dei patris, Amen.

 

 

Credo

 

Credo in unum deum, patrem omnipotentem.

Factorem caeli et terrae, visibilium omnium et invisibilium,

Et in unum dominum. Jesum Christum filium dei unigenitum.

Et ex patre natum ante omnia saecula.

Deum de deo, lumen de lumine, deum verum de deo vero.

Genitum, non factum, consubstantialem patri: per quem omnia facta sunt.

Qui propter nos homines, et propter nostram salutem descendit de caelis.

Et incarnatus est de spiritu sancto ex Maria virgine: et homo factus est.

Crucifixus etiam pro nobis sub Pontio Pilato: passus, et sepultus est.

Et resurrexit tertia die, secundum scripturas.

Et ascendit in caelum: sedet ad dexteram patris.

Et iterum venturus est cum gloria judicare vivos et mortuos:

cujus regni non erit finis.

Et in spiritum sancutum dominum,

et vivificantem: qui ex patre, filioque procedit.

Qui cum patre, et filio(que) simul adoratur, et conglorificatur: qui locutus est per prophetas.

Et unam, sanctam, catholicam et apostolicam ecclesiam.

Confiteor unum baptisma in remissionem peccatorum.

Et exspecto resurrectionem mortuorum. Et vitam venturi saecli. Amen.

 生涯にわたって宗教曲に取りくんだラインベルガーだが、このミサ曲が出版されるまでは、彼の作品カタログで宗教曲が占める割合はそれほど高くない。ミサ曲に限れば、習作期に作られた未発表の5曲、他断片。最初に作品番号を付与した『大レクイエム op.60』(初稿1865年/26歳)、作品番号こそは後になっているが、『ミサ曲 ニ短調 op.83』(初稿1861年/22歳)、『レクイエム 変ホ長調 op.84』(1867年/28歳)ぐらいしか見当たらない。宮廷楽長に就任(1877年/38歳)時に書いた『ミサ曲 変ホ長調 op.109』が大きなターニングポイントだが、結婚後に最初に書いたミサ曲であり、最初のオルガン伴奏の作品でもある、この『ミサ曲 ヘ短調 op.62』も検討の価値はあるだろう。

 

 『ミサ曲 ヘ短調 作品62』はとても特徴のある作品である。まず簡潔に独唱とオルガン伴奏のために作られている。次にトマス・アクィナスによるキリストの聖体の祝日の讃歌「Verbum supernum 天のみ言葉」の第1節・第4節・第5節をグロリアとクレドの間に昇階唱として挿入している。

 

 またこの曲にはいくつかの副題が添えられている。まずWernerから出た初版表紙では「Kleiner und leichter Meßgesang (小さくて簡単な歌唱ミサ)」と書かれている。またいくつかの版により錯綜しているようで、同様内容の「Kurzer und leichter Meßgesang (短く簡単な歌唱ミサ)」とも題されている。前者は現行手に入りやすいカールス社の単行本にも記載されているが、後者は同社ラインベルガー全集第1巻の序文に簡単に注記されている。またそのほかにも「Missa puerorum」という副題を持つこともあるが、これは1903年にトリノでG. パゲッラによって編纂・発行された版に基づいている。「puerorum」は少年意味するラテン語「puer」の属格複数形(所有格複数形)で「少年たち」を意味する模様なので、やはり「小さいミサ曲」を意味している。

 

 成立過程も、ほかの彼の作品と比較すると異色である。作品は1871年(32歳)6月3日から1872年7月26日までのスパンをかけ、いくつかの段階を経て完成された。きっかけは妻フランチスカであった。1871年6月3日・三位一体の主日の前日夕方、彼女が白紙の五線紙に独唱のためのキリエを書き始めたことがきっかけであった。ラインベルガーは興味を持ち右手が痛いにもかかわらず五線紙を取り上げ、47小節のキリエに伴奏をつけてみた。午後7時45分頃のことだという。そして彼女は日記に続けている。- 「8時には小オルガンと共に歌った」。その後『オルガンソナタ #2, op.65』完成の少し前、7月5日にはKyrie、Verbum supernum、Sanctus、 Agnus Deiがまとめられ、フランチスカが礼拝で歌ったようである。この時点でGloria、CredoそしてBnedictusは必要とされず書かれなかった。残りの3曲は、まず翌1872年1月12日、『Türmes Töchterlein op.70 塔守の娘』に取り掛かっていた時期にBenedictusが、夕方の戯れ的会話の中からわずか30分ほどで作曲された。作曲家は出版も視野に入れたため、7月にGloria(25日)とCredo(26日)を完成させた。1872年の遅くに『ヘ短調のミサ曲』は出版されている。

 

 ラインベルガーはこの「短くて簡単なミサ曲」のためにGloriaとCredoでいくつかの文言を省略している。これはセシリア主義者からの異議申し立てを受ける要因の一つとなっている。作曲家の弟子にして最大の擁護者、ヨーゼフ・レンナー・ジュニアは「ラインベルガーは、閉じた対照的形式に向けられた注意は、テキストの処理において特定の点である程度の自由度をもっていた」と、この省略を説明した。彼のミサ曲にはテキストの欠落がまま見受けられるが、当時は彼の人気を損なうものではなく、非常に親しまれた。

 

 足鍵盤使用の指示によって、ラインベルガーはこの「ミサ曲」がオルガンにて伴奏されることを示唆している。しかし、足鍵盤を使用せず、全ての伴奏をポジテフオルガンやハルモニウムで演奏することもできる。その場合は、いくつかのバスのパッセージをオクターブ置き換えて左手で演奏できるようにしなければならない。オルガンは全編にわたって、和声的であり装飾的パッセージは全くない。