ベツヘレムの星 op.164


レーベル:Carus
Disc No.: 83.111
録音年月日:1968
指揮:Robert Heger
演奏:Chor des Bayerischen Rundfunks
伴奏:Symphonie-Orchester Graunke

ソリスト
    Rita Streich (S)
    Dietrich Fischer-Dieskau (Br)


レーベル:CAPRICCIO
Disc No.: 10 551
録音年月日:1996/Dec/9-14
指揮:Helmuth Froschauer
演奏:Kölner Rundfunkchor
伴奏:Kölner Rundfunkorchester

ソリスト
    Dorothee Jansen (S)
    Berhard Spingler (Br)

他 (rec. 1996/Feb/10-13)
  Rhapsodie Des-dur für Oboe und Orgel
  Sonate Nr.7 f-moll für Orgel op.127 
    Peter Dicke (organ)
    Gehard Vetter (oboe)


レーベル:Ars Produktion
Disc No.: FCD 368 374
録音年月日:1998/Dec/20-21, Feb/7
指揮:Stefan Fraas
演奏:Universitätschor
伴奏:Vogtland Philharmonie Greiz/Reichenbach

ソリスト
    Dilek Gecer (S)
    Michael Junge (Br)


Advent-Motetten op.176


えー、この曲の国内での完全演奏はWebMasterの知る限りでは、Tokyo Embassy Choirが2012/Dec/01 及び 07(当時の名称は英国大使館合唱団 British Embassy Choir)に行ったものぐらいか。残念ながら実演を耳にすることはできなかった。この団体はセミプロと言っていい実力を持っているので、いい演奏が聴けた思うのでとても残念 orz

指揮:スティーブン・モーガン

演奏:英国大使館合唱団

伴奏:BECフェスティバルオーケストラ

Dec/01@カトリック目黒教会

Dec/07@明治学院チャペル


『星』の首都圏及び、完全演奏はこの演奏であろう。

 WebMasterは当初、この曲はあまり好きではなかった。内容がよくわからなかったからであるし、ぐっと心をつかむメロディや和音もあまり感じなかった。20世紀の間は、一番最初に購入したCarus盤を2回ほど聴いてうっちゃっていた。ライナーノートも読んでいなかった。当時はラインベルガーに関してはミサ曲以外はほとんど興味がなかった。

 

 そこかしこで書いているが、21世紀になって彼の生涯についてちゃんと調べるようにしてみた。そして彼の奥さんファニーの存在を認識した。そしてこの曲とファニーに関わりを、それは台本をファニーが書いた以上に深い結びつきがあることがわかってくるとどうしても目頭が熱くなってしまう。そして全編を通し流れるE-Fis-A-Eの主題の素晴らしいこと。この『ベツレヘムの星 op.164』(以下『星』)の生い立ちを簡単に述べてみたい。


 まず、左のCAPRICCIO盤を絡めて述べよう。『星』はその起源をオルガンソナタに持ってる。『オルガンソナタ #4 イ短調 op.98』(以下『#4』)が関わる。1876年に作曲されたこの曲はいろいろな興味深い仕掛けがある。第一楽章の冒頭挑発的・扇情的と言っていい主題で開始され、その後さらに印象的な第二主題「tonus peregrinus マニフィカート(わが魂は主をあがめ)」-大バッハも引用した-いや先達に習ったか-静かに引用される。この「マニフィカート」に関してだけ小田賢二氏の論文に詳しい。牧歌的な第二楽章に続き、天も砕けてこぼれ落ち、奈落に落ちよとばかりに下降する半音階進行の第三楽章が始まり、第一楽章の第一主題、そして終結でまた、しかし今度は力強く「マニフィカート」が歌われる。

 

 この時代オルガンと単独楽器のアンサンブルはかなり人気があったのだが、オリジナル作品は少なくほとんどが既存曲の編曲による機会的なものばかりがほとんどであった。ここでオルガンのスペシャリスト・ラインベルガーが作品を提供することとなる(代表的な例としてはop.150やop.166、そしてその派生物があげられる)。

 

 とても力強い『#4』なのだが、ラインベルガーは優しい第二楽章がお気に入りだったようだ。第二楽章「Intermezzo」をオーボエとのアンサンブルに編曲し、『アンダンテ・パストラーレ』と題して1888年に発表する。ちなみにこの試みは好評だった模様で、オルガンソナタ#7の第二楽章も後に『ラプソディ』と題してオーボエとのアンサンブルにする。

 

 さてやっと『星』である。この曲はファニーが台本を手がけ、ソプラノとバリトンのソロ、オーケストラを伴う夫婦合作として最大の規模を誇る。かつ最後の合作作品となり、1890年に完成した。その第二楽章「羊飼いの歌」には件の「Intermezzo」が再び引用され、三部作を形作っていると言ってもいい。

 

 完成したのはいいが、この頃ラインベルガー家は最悪の状態であった。妻ファニーは数年前からの病で伏せっているだけではなく、精神的にもかなり不安定な状態であった。ラインベルガーは51才、ファニーは59才頃である。彼は彼女の看病にかなり時間をとられることになる。

 

 また、第3楽章「Erscheinung des Engels 天使の顕現」コーダ部分、Maestoso. 35小節目以降「Ehre sei Gott in der Höhe, 天のいと高きところには神に栄光」では『オルガンソナタ #3, op.88』にて使用された主題「Der acht Psalmto. グレゴリオ聖歌の第8詩篇」が流用されている。やはりこの曲はラインベルガーにとって、いや夫妻にとって最も重要な曲なのであろう。

 

 そして2年後の1892年のクリスマス・イブ、『星』の世界初演がドレスデン聖十字架教会で行われることになったが、ラインベルガーは危篤状態のファニーの看病のために、初演に立ち会うことを断念するのであった。ラインベルガーはその初演の夜、危篤状態のファニーに届いたばかりの『星』のボーカルスコアを手渡してあげた。

 

 ラインベルガーは彼女がことのほか愛した「羊飼いの歌」を弾いてあげるために別室に移らなければならなかった。ファニーが臥せっている間、彼の身の世話をしにやってきていた姪や同席していたシスターも皆泣いていたという。誰もがその晩の臨終を覚悟したが、ファニーは一週間持ち大晦日に亡くなってしまう。「羊飼いの歌」の主題は夫婦が最も愛したテーマなのであった。

 

詳しくはファニーのコーナーを参照して欲しい


 あー、長かった。ここまで読んでくれてありがとう。ここで少しおかしいことに気づいた人は勘がいい。CAPRICCIO盤に収録されているのは、『#4』ではない。『オルガンソナタ #7 ヘ短調 op.127』であり、その第二楽章「Andante」を編曲した『ラプソディ』である。(; ・`д・´) ナ、ナンダッテー!! (`・д´・ ;)

 

 このディスクのライナーノートを見ても、いまいち件の三部作についての説明はない。説明がないから、根本的に知らずにカップリンクしてしまったのか? もしかしたら、オーボエとのコラボがあるから『#4』&『アンダンテ・パストラーレ』の組み合わせと『#7』と『ラプソディー』の組み合わせを、ガチで取り違えているのではないかと思われる orz

 

 いや、この組み合わせはないでしょ、普通。まいるのはこのような話を知らないのに、物知り顔でこのディスクを解説するサイトがあること。どことは言わないが、だいぶ前からあるみたいね、そこ。もうね、本当にラインベルガーって知られていないんだなと思いますよ orz



国内での『星』の最も古い演奏記録は、2005年/Oct/30に大阪センチュリー合唱団によるピアノ伴奏演奏である。

指揮/本山秀毅, ピアノ/阪本久美, ソプラノ/山添元子, バス/荻原寛明