瀧廉太郎、ほか


 日本国内でラインベルガーが初めて演奏されたのは、1896年(明治29年)に行われた東京音楽学校で行われた瀧廉太郎のピアノ演奏だといわれます。まだ作曲家は存命している時期です。その他の演奏を『東京芸術大学百年史』を参照し、その受容から何かしら見いだせないかとピックアップしてみました。

 ピアノ以外にもオルガンの演奏があったことは、Twitterで教えていただいたり、「藝大130周年記念音楽祭 鍵盤楽器~未来永劫~(2018/01/07)」や「台東区立 旧音楽学校奏楽堂 リニューアルオープン記念演奏会 パイプオルガン修理記念(2018/11/10)」の演奏会で断片的にソナタ4番が取り上げられていたことは耳にしていたのですが、実際に掲載されているものを全て拾ってみました。

 驚いたことは瀧廉太郎の初めての独演でラインベルガーを取り上げたことは把握していましたが、2回取り上げていることは知りませんでした。また昭和の演奏会で、ラインベルガーの経歴が現在よりも詳しく伝わっていることです。彼が王立ミュンヘン音楽院の学長に就任した際、フランツ・ヴュルナーとの分担制だったのでした。その件にも触れている点です。実際はヴュルナーがオーケストラと声楽のクラスを、ラインベルガーがピアノ&オルガンと理論のクラスを管理していたのですが、割に正確です。この件は弊サイトでも最近ワンガーの『Josef Gabriel Rheiberger』を今年(2019)になって読破し、やっと把握したばかりで、まだバイオグラフィーに反映させていない点です。

 またあの中田章もオルガン演奏をしていたことは小耳に挟んでいたのですが、宗教曲も演奏していたことにも驚きました。

 

 基本的にはピアノ曲は『Drei Charakterstücke op.7 3つの性格的小品 作品7』から1番の「Ballad」。オルガン曲は『Orgelsonate Nr.4 a moll op.97 オルガンソナタ 4番 イ短調 作品97』がそれぞれ6回(明治・大正5回/昭和1回)と4回(明治・大正2回/昭和2回)演奏されています。作曲家の総作品数からすれば、極端に偏っているのは、楽譜が伝わっていなかったからではないかと推測されます。例えば瀧廉太郎の演奏は瀧自身が写譜した楽譜を使用したことが瀧の研究サイトで言及されています(ググるといっぱい出てきます)。またオルガン演奏は、芸大で長くうっちゃられていて、近年助成金で復刻されたリードオルガン、もしくは旧奏楽堂のパイプオルガンの演奏になります。手持ちの資料にて「昭和5年(1930年)6月21日 皇太后陛下行啓演奏会 洋楽の部」は奏楽堂での演奏であることが確認が取れています。


東京芸術大学百年史 演奏会篇 第一巻

編集:(財)芸術研究振興財団/東京芸術大学百年史刊行委員会/音楽之友社/1990

 

1.

p.44

明治29年(1896年)12月12日 楽友会演奏会 土曜日 午後一時半

八 ピヤノ(独奏) 会員 瀧廉太郎氏 演奏

バラード ヨセフ、ラインベルゲル氏 作曲

 

参考

「第八ピヤノ独弾 ラインベルゲル氏作バラードは将来多望の公評ある瀧氏の演奏なり全体ピヤノ独奏は未だ邦人多数の好尚に適はざるが如く従って奏者の骨の折るゝ割合に聴者に喜ばれざるが常なれど此演奏は然らずして彼れ少壮可憐の奏者が静に演壇に上りて弾奏を始めしより終りまで能く聴者の耳を傾けしめたる技?実に天晴末頼もしを言ふの外なし奇語す氏は声楽に於ても亦器楽に於ても芸術家たるの資を具備せる者の如し望むらくは自重自愛益々其技を切磋し其芸を琢磨せよ苟にも小成に安じ小長に慢るは特に芸術界の大禁物たると忘るなくんば幸いなり。」

雑誌「おむ賀久(音楽)」(第74号、明治30年11月)

http://albert31st.blog104.fc2.com/?mode=m&no=363 より

 

2.

p.53

明治30年(1897年)10月26日 楽友会演奏会 火曜日 午後一時半

八 ピヤノ(独弾) 会員 瀧廉太郎氏 演奏

バラード ラインベルゲル氏 作曲

 

3.

p.360

大正1年(1912年)12月14日 学友会第三回土曜演奏会

第二部

番外(9と10の間)

風琴独唱 中田章

ソナタ(イ短調) ラインベルゲル作

 

4.

p.361

大正2年(1913年)2月8日 学友会第四回土曜演奏会

四、ピアノ独奏 谷村なつ

バラッド(作品第七) ラインベルゲル作曲

 

5.

P.377

大正2年(1913年)10月4日~5日 学友会演奏旅行(女子部)

四、ピアノ独奏 谷村ナツ

バラーデ ラインベルガー作

 

6.

p.438

大正5年(1916年)7月8日 学友会第十七回土曜演奏会

二、ピアーノ独奏 阿保寛

バラーデ、作品七 ラインベルガー

 

7.

p.468

大正7年(1918年)2月23日 学友会第二十二回土曜演奏会

番外(*)、風琴独奏 眞篠俊雄 (*7と8の間)

奏鳴楽 イ短調、作品九十八、

い、モデラート

ろ、アンダンティーノ

は、フーガ クロマティーカ

 

8.

p.524

大正10年(1921年)5月7日、8日 第四十回定期演奏会

午後一時半開場 午後二時開会

二、女声三部合唱(オルガン伴奏)

羅典聖歌二篇(作品九六) ラインベルガー作曲

オルガン伴奏 中田章

東京芸術大学百年史 演奏会篇 第二巻

編集:(財)芸術研究振興財団/東京芸術大学百年史刊行委員会/音楽之友社/1993

 

1.

p.78

昭和5年(1930年)6月21日 皇太后陛下行啓演奏会

洋楽の部

一、オルガン独奏 教授 眞篠俊雄

イ短調ソナタ(作品九八) ラインベルゲル作

第一楽章 (中庸に早く)

 

演奏曲目解説

一オルガン独奏

イ短調ソナタ(作品九八) ラインベルゲル作

第一楽章

ラインベルゲル(J. Rheinberger 1839-1901)は元リーヒテンスタインの人で、少時からオルガンの演奏及び作曲を善くし、一八五一年から五四年年までミュンヘンの王立音楽学校に学び、其後も此の市に留まって五九年に同音楽学校の理論の教師となり、又六七年には作曲及オルガンの教授並に器楽部及理論部の監督に任じられて卒去の年まで此の職に留まった。ラインベルゲルは彼の時代の最も著名な作曲者の一人で、器楽にも声楽にも多くの作品を遺したが、彼のオルガン曲は殊に珍重せられている。彼の作った二十のオルガン・ソナタは実にメンデルスゾーン以来の最も貴重な作品で、近代的精神と威厳のあるオルガン様式とを巧みに調和した傑作である。本演奏のソナタは第四番、イ短調のもので、その第一楽章はリヅムの躍動せる第一主想に対して、単純古雅な教会調の旋律を第二主想に配してある。此の想は幅広い音符で緩やかに進み第一主想と好対照を成している。

 

2.

p.392

昭和11年(1936年)3月18日 上野児童音楽学園第一回卒業式

二、ピアノ独奏 川島久子

バラーデ ラインベルガー作曲

 

3.

p.400

昭和11年(1936年)六月一四日 第九十回学友会演奏会 (日曜日)

オルガン独奏 牧野敏成

ソナタ イ短調 作品九八の一 ラインベルガー

 

4.

p.782

昭和23年(1948年)3月30日、31日 卒業式

第一日

一、オルガン独奏 本科卒業 高橋正子

ラインベルガー作・ソナタ(イ短調)作品九八より

第一楽章 テンポ・モデラート


瀧廉太郎が演奏したバラード冒頭部
瀧廉太郎が演奏したバラード冒頭部