ピアノ協奏曲 変イ長調 作品94

ラインベルガーだけとは限りませんが、ロマン派の時代の作曲家は管弦楽作品のピアノリダクション、特に連弾4手(もしくはピアノ2台)のバージョンを同時に作り、出版することは珍しいことではありませんでした。管弦楽に直す前の自己の作品の研究のためもありますし、また録音技術が発生する前ですので、ピアノ連弾はオリジナル作品の録音物と同等の意味合いがありました。ラインベルガーは自己の管弦楽作品の多くをピアノ連弾4手に直し、出版を行いました。

 

彼が1976年に完成させた『ピアノ協奏曲 変イ長調 作品94』は、まずピアノ2台にて全体像が書かれました。ただしこの時書かれたバージョンは縮小版と言ってよく、管弦楽バージョンよりも少し小さな規模でした。その後管弦楽バージョンに着手した際、全体像が拡張され現在の形になります。この管弦楽バージョンは再度ピアノリダクションバージョンが作成されますが、この2番目のリダクションはオーケストラ部分のリダクションは、名前は伝わっていませんが、弟子のうちの誰かがおそらくラインベルガーの監修の元に手がけます(おそらく彼の管弦楽をよく手助けしたヨハン・ネポムク・カヴァッロが有力でしょう)。

 

オリジナル管弦楽バージョンは1875-1876年の冬のシーズンに手がけられ、1876年2月12日に完成しました。世界初演は弟子のヨハン・ネポムク・カヴァッロが手がけたパート譜を使い、またトロンボーンも付け加えられ、1876年7月59日にラインベルガーの生徒ルードヴィッヒ・リッテル・フォン・ドゥニーッキのピアノによりミュンヘンのオデオンホールにて執り行われました。『ヴァレンシュタイン交響曲』の成功もあり、『ピアノ協奏曲』は好評を博しましたのでミュンヘン以降ライプツィヒやケルンなどドイツ各地で演奏されます。しかし同時代のブラームスやチャイコフスキーらのようにその後は生き残ることは出来ませんでした。作品はミュンヘン音楽院の同僚で、かつての学友のピアニスト、カール・ベールマンに献呈されます。スコアはマインツのショットから出版されました。

 

通常ならこれで話が終わるのですが、あに図らんや話はまだ続きます。作成者不明のピアノ2台のためのリダクションバージョンは演奏者2名、つまり4手のためのリダクションなのですが、ラインベルガーはさらにリダクションバージョンの規模を拡大させました。オーケストラ部分を作曲家自ら4手の形、つまりピアノ2台6手のバージョンを作成します。このバージョンはショットに記録がないため、当時出版されたかどうかもわかりません。また現在全集を刊行していますCarusからも、ピアニストが3人も必要と言うこともあり実践的な難しい面があるとのことで、復元されませんでした。

 

本動画のための浄書は2019年にとある企画のために2018年に行いましたが、企画がぽしゃってしまったため、そのまま放置しておりました。が、供養のために公開いたします。おそらく世界初の試みと自負しております(なんちゃって)。

第一楽章 Moderato


第二楽章 Adagio patetico


第三楽章 Finale

(Allegro energico)


※本動画はソリスト部分はCarus : CV50.227をオーケストラ部分は BSB Mus.ms. 4568-3 [2.3.1877]を底本に使用しました