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ミサ曲 ヘ短調 op.159

混声合唱とオルガンのための『ミサ曲 ヘ短調 op.159』は1889年の6月13日から19日の間に下書きを行われ、6月25日から7月8日にかけての清書にて完成した。op.155に関しても言えることだが、作曲の契機については資料がないためつまびらかにできない。ラインベルガーの多くの作品は自発的に作られたものが多い。この時作られたの楽章はKyrie、Credo、Sancutus、Benedicutus、Agnus Deiの5楽章であった。Gloriaはミュンヘンの先達作曲家、カスパー・エットの『“Missa ferialis” in F major』を補うために、すでに2年前の1887年に作曲されていた。当初このGloriaは無伴奏であった。『ミサ曲 ヘ短調 op.159』はオルガン伴奏の曲であるので、Gloriaにも伴奏が施されたが、突貫で作られたため、伴奏はほとんど合唱部分をなぞっていると言っても差し支えない。ただでさえラインベルガーのミサ曲の伴奏は装飾が少ないのだが、このGloriaは他の楽章に比べて、間奏や装飾的な部分がさらに無い。テキストの欠落など典礼上問題になるところはないよう、慎重を期しop.159はフランツ・クセバー・ハーベルルに献呈された。op.155の好意的論評への返礼や、セシリアンからの攻撃をかわす意図があったのだろう。ハーベルルはラインベルガーに「今現在保養地で楽譜を受け取ったので、レーゲンスブルクに返り次第検討する」と返答を11月に行った。ハーベルルからの連絡はそこで途絶えてしまうことになる。

 

op.159が出版されると論争が巻き起こるのであった。オーストリアの定期刊行誌『教会合唱』ではエルンスト・フォン・ウェッラが作品を高く評したが、総ドイツ・セシリア協会(ACV)の機関誌『カソリック教会音楽・風に舞う木の葉』に掲載された匿名評論家と8人の作家による論評をかいつまめば、

 

「このミサ曲がどれだけ技巧的であろうが、この音楽は教会音楽には適さない」

「カトリック的にも一般的な宗教的精神にも基づいてない」

「教会で演奏したら、まるでその場がコンサートホールかオペラハウスのように思えてしまう」

「まるで浮ついた芸術の妖精が妖怪に化けたみたいだ」

「半音階の使用が多すぎる」

「CredoやBenedictusが短調であるのも好ましくない」

 

また、匿名の批評家はCredoの開始部の旋律を示してこれをラブソングと決めつける、といった具合でどれも辛辣を極める物であった。

 

ここでセシリアンの大物、オーストリア・セシリア協会(ÖCV)の会長ヨハン・エバンジェリスト・ハーベルトが論争に加わわる。彼らÖCVはACVに比べれば、はるかにリベラルな考えの持ち主で両者は不仲であったこともあり、ハーベルトは「ACVの言い分は言いがかりである」とその機関誌に発表を行った。作曲者自身は基本的に沈黙をしていた。別の音楽雑誌『合唱音楽』には好意的な評論がなされ、論争はラインベルガー擁護の声が多いように思われる。また世間的にもop.159は人気があった。作曲者自身がこの曲を気に入っていたこともあり、1889年の初演後、1894年までの5年間で作曲者自身のタクトにより12回も演奏された。またラインベルガーの死後10年たった1911年に出版を行ったロイッカート社の依頼によりヨハネス・G・モイラーの手によってオーケストラ伴奏が付された。op.159がいかに人気があったかがうかがえる。

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